中国の場合、有事の際に消耗可能な男子が有り余っている。貧困に喘ぐ地方の、教育も受けていない若者に食事と住処とちっぽけな給料を「軍隊に入れば…」と吹き込んで抱き込めばそれだけで兵力を増強出来る。年に20万件以上と言われるデモや暴動で中央当局に捕まり果てしない拷問を受けるよりは兵士になった方がマシだというわけだ。
一方アメリカでは911同時多発テロ前後のアメリカ経済の悪化および後退、製造業職種のオフショア化による就職難によって仕事にあぶれる若者が急激に増加した事を背景として、軍が若者を勧誘する際に「大学の学費負担」を退役後の条件として掲げているため、それに釣られた下層階級の多くの若者が兵士となる。特に昨今の大学学費の異常な高騰は下層階級のみならず中流階級家庭にも経済的プレッシャーがかかっている。(自分は下層階級の若者が従軍するのは米国政府や官庁がある程度そのような作為を持って組織的にそう仕向けていると考えている。)さらに911同時多発テロ勃発後はアメリカ独特の愛国心を以て自らの意思で従軍する血気盛んな若者も大変多かった。
また、アメリカの税制下では以下のようになっている:
1.結婚すると一人当たりの所得税は独身者よりも税率が高くなる。
2.結婚して高くなった税率を減少させる方法は二つある。一つは子供を作る事。もう一つは住宅ローンを組んで(平たく言えば借金をして)家を買えば、ローン支払いのうち利子分が所得税申告の際控除対象となる。
つまり「アメリカンドリーム」を実現したかったら先ず結婚し、子供を作り、家を買い、その家を消費品で一杯にしろという話だ。アメリカ社会では未だにそれが理想像とされるため、離婚率50%であろうとなかろうと将来兵士となってくれる「人材」は産まれ続けることになる。上手く出来たものだ。
因に、中国の貧困階級同様、アメリカ下層階級の若者たちの教育レベルも非常に低い。過去に製造業で繁栄した南部や中西部の市町村では今や失業率50%以上、基礎教育を全うしない若者(いわゆるドロップアウト達)が40%というコミュニティーもある。今そこにあるのは劣悪な治安と麻薬だけだ。従って、アメリカでも中国同様、一般兵士達の知性や理性レベルは非常に低いと考えて良い。日本領土にある米軍基地周辺で起こる米兵による日本国民に対する理不尽で残酷な犯罪が起こるのは下士官以下レベルの兵士の理性や知能レベルが低い事も大きな理由だと考えている。
これらの違いはあるにせよ、アメリカや中国はこのように供給を維持している膨大な兵力をバックに国際外交では偉そうな事を平気で言えるわけだ。また、各政府が国内軍備企業とベタベタの関係を保ち、兵器の増強、高技術の新兵器開発がそれに伴っている事は言うまでもない。
日中戦争と太平洋戦争でもそうだったが、そんな相手に戦争を仕掛けるのは狂気の沙汰以外の何ものでもないだろう。
しかし、どうやら現行日本政府はそう考えてはいない。
現在の数多い日本国内の問題の中に少子化というのがある。そう、少子化が問題になっている国がどのように志願者を募り、訓練し、戦線に送り込むと言うのか?という事だ。放っておけば人口が低くなるだけの今の日本が、今後さらにその人口の一部を戦争で犠牲にする覚悟があっての雑言なのだろうか?この点だけでも現行日本政府が机上の空論ならぬ妄想論を現実化しようとしている浅はかさが見て取れる。ネトウヨなどは「富国強兵」と「少子化」のジレンマさえ理解出来る知能は持っていないだろう。
日本国内から見てどうなのかは詳しく知らないが、これらの事を理解した上で国際レベルで日本の外から見ると、日本の宰相の言動などチャンチャラ可笑しくてまともに受け取れるものではない。これについては小林よしのり氏も大前研一氏も別の角度からほぼ同じ結論を出されているようだ。島国根性、井の中の蛙のメンタリティー炸裂中と言ったところか。
では少子化問題はどのように解決出来るのか?大して頭の良くない自分でさえある程度の想像はつく。
若者達が安心して結婚し、経済的にも環境面においても安心して子供を産み育てることが出来、子供は虐待や利用される事無く成長出来る国および社会を作る。
単純にただそれだけである。今後日本が太平洋戦争の苦い体験をもう一度味わいたいかのように暴走するにしても、兵士の増強はそんな場合も最低限必要事項なのだ。宰相が恥も知らずに国際社会に軽薄な口先だけの「戦術」を主張する今の日本はその真逆に向かっている。そんな宰相とその取り巻きを「圧倒的支援」を以て選出したのは日本の有権者達だ。
1994年5月に初めてヨーロッパを旅して以来、「女と子供が幸せな国は安定した良い国だ」という考えは今も変わらないが、それを現在の日本に期待するのは無理であろう。